中山道広重美術館「木曽海道六拾九次之内」
中山道広重美術館に「木曽海道六拾九次之内」を観に行ってきました。
年に一度、全図がイッキ見出来るのですが、いつ観ても観応えがあります。
今回は解説プレートに「雲母(刷り)」「胡粉(散らし)」と明示されていたので、その浮世絵を様々な角度から見ることによって刷りの技法を堪能することが出来ました。この明示は良いですね。
当美術館は田中コレクションがベースになっていますが、新規収蔵品の展示もあり、これもまた楽しめました。
・「木曽海道六拾九次之内 武佐」広重
川面の白を生かした明るい色使い
・「江戸八景 吉原の夜雨」英泉
・「東都名所 永田馬場 山王宮」広重
・「江戸近郊八景之内 吾嬬者夜雨」広重
・「新撰江戸名所 隅田川場白雨之図」広重
少しずつでも収蔵品が増えていくと鑑賞する楽しみも増えますので、引き続き頑張ってもらいたいところです。
日本浮世絵博物館 「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」展(後期)ギャラリートーク
2022年3月18日(土)
「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」後期展に行ってきました。ギャラリートーク付きです。
3月の特別展示は広重の「名所江戸百景 真崎辺より水神の森内川 関屋の里を見る図」。
半円状のフレームに切り取られた隅田川西岸の風景がのどかな早春の風景を伝えています。
国貞「梶原源太景季 佐々木四郎高綱」。
二人の武将がと宇治川の流れが荒々しく描かれており、躍動感たっぷりです。
典型的な武者絵のように、主人公たちが決めポーズを取っているかのようです。
「宇治川先陣争」とはことなり、首まで宇治川に浸かりながら馬を進めていく場面ですが、川の深さと渡河の困難さが否応にも伝わってきます。
なかなかお目にかかれない絵師の図ですが、薙刀を手挟んだ巴御前は、江戸庶民が思い浮かべる典型的な巴御前像だったのでしょう。
月岡芳年「新形三十六怪撰 二十四孝狐火之図」。
八重垣姫が諏訪法性の兜を手に落ち延びて行く場面ですが、八重垣姫の着物の襟や裾と諏訪法性の兜にそれぞれ異なる模様の空刷りが施されており、手の込んだ一品となっています。
木曽街道六拾九次からは、長野県エリアの宿場絵の中から抜粋した展示。
英泉の「木曽街道塩尻嶺諏訪ノ湖水眺望」。
凍結した諏訪湖の湖面を渡る旅人が描かれ、いつ見ても冬景色ながら暖かみを感じる逸品ですね。
次回展示は「江戸と諸国名所」。旅情溢れる浮世絵が見られることを楽しみにしたいと思います。
日本浮世絵博物館 「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」展(前期)ギャラリートーク
2022年1月15日(日)
日本浮世絵博物館 「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」展(前期)ギャラリートーク
「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」前期展に行ってきました。今年最初のギャラリートークです。
1月の特別展示は歌麿の「万福長者豊歳栄」。
たいへんおめでたい図で、弁財天や大黒天、恵比寿が描かれていますが、中でも福助の存在感がすごいです。
二代勝川春章による義仲四天王。童顔の木曽義仲四天王が暴れ回る姿が描かれています。躍動感がありながらどことなくユーモラスです。
勝川春亭の北國犬伏峠大合戦。中央に巴御前、手塚太郎や樋口次郎は脇に配し、主役は巴御前なんだぞと言いたげ。色数は少ないものの3枚もので広々とした画角で迫ってきます。
月岡芳年の各種武者絵、木曽義仲、信玄、謙信など。独特の抒情感、寂寥感が湛えられ、表情に誇張がない分、しみじみとこちらの心に残ってきます。
信玄公諏訪法性の兜のハグマ部分の入念な空摺り
国芳の勇魁三十六合戦 廿八。倶利伽羅峠の闘いを描いていますね。実際には無かったとも言われている火牛の計ですが、「そんな細けぇこたぁどうでもいいんだよ」とばかりに大胆に描き、大混乱の様子は「お見事!」と絵を見ながら拍手喝采してしまいそうな迫力。
勝川春亭、歌川貞秀、広重による宇治川合戦。特に貞秀は遠近法を使って3枚もの、迫真の画面。
一方の広重は、まるで木曽街道を描いているような叙情的な合戦図になってしまっていてとても微笑ましいです。
宇治川合戦は名馬池月に騎乗した佐々木高綱と、同じく磨墨に騎乗した梶原景季の先陣争いで有名です。松本市立高綱中学校の校名の由来にもなっている佐々木高綱は、源平合戦ののち出家して松本市内に正行寺を開基したと伝えられています。
勝川春亭、国芳などによる巴御前。女武者として昔から格好の題材だったのだと思いますが、どれもムキムキの武者というよりは絶世の美女風に描かれていて、当時の人々の思い入れのほどが分かります。
国芳、歌川芳艶、勝川春亭、広重による信州川中島合戦各図。それぞれの個性があって大変面白いです。特に広重の絵には「故人春亭の画を見て模写してますよ」的な事が書かれていて、当時としてもこんなコピーライト的な律儀なことをするんだなと初めて知りました。
木曽街道六拾九次からは、長野県エリアの宿場絵の中から抜粋した展示。状態の良い塩なたや長久保はいつ見ても叙情感があってしみじみします。
国貞(三代豊国)、国芳の役者絵による木曽街道。役者絵と背景の街道絵のコントラストが楽しいですね。当時の人々は、役者絵を見ればすぐに誰のことなのか分かったそうですが、今の我々には解説がないとなかなか厳しいですね。
後期展示は全ての作品が入れ替わるということで、同じ題材を異なる表現で描く作品など、その違いの比較が楽しめそうです。
バッハ・コレギウム・ジャパン 松本公演
2022/12/23(金)
バッハ・コレギウム・ジャパン 松本公演
鈴木 雅明 指揮
2022/12/23(金)18:30開演
バッハ・コレギウム・ジャパンが5年ぶりに来松。来松自体、歴史的ですが、前回公演がバッハの「マタイ受難曲」で、今回はヘンデルの「メサイア」。BCJメサイアは東京や軽井沢で何度も聴いていますが、今回は私の大好きな松本市音楽文化ホールでの演奏。知る人ぞ知る良音響のホールです。シーズン的にもメサイアにピッタリの時期で、期待は高まりました。
メサイアの響きと言えばほの暗さと明るさが同居したようなところが特徴的ですが、本日のBCJは急ぎ過ぎずもたれすぎずの明快なテンポで進みました。各チャプターの後半に向かい祝祭的な雰囲気が高まって行き、各終曲では暖かくなだらかな頂点を築き上げ、聴衆を優しい幸福感で包むのでありました。
終演は21:30頃でしたが、聴衆はほとんど帰路に急がず、座席から惜しみない拍手を送っていたのが印象的でした。
個人的にMVPはアレクサンダー・チャンスさん(アルト)。ピュアでありながらとても芯の通った歌唱が大変印象的で、低音部の声部が痩せないところなんかも素晴らしい。この方の「マタイ」も聴いてみたいなと思いました。
大西宇宙さん(バス)も豊かな声量と深みのある表現で、心を惹きつけるチカラがあるなと思いました。
バロック・トランペットのジャン=フランソワ・マドゥフさん。輝かしくも温かみのある、天井から(1部ではまさにバルコニーから)降ってくるような音色には耳も目線も釘付けになりました。
私が聴いたBCJのメサイアの中で、今夜がいちばん感動したかも知れません。
アンコールはルロイ・アンダーソン作曲、鈴木優人編曲の「クリスマス・キャロル」。こちらも異次元のハーモニーでした。
今回も歴史を作ったBCJ。マタイの時も言いましたが、ぜひ松本公演を定期演奏会化して欲しいものです。(笑)
上方浮世絵館 「浪花道頓堀の役者たち」展
上方浮世絵館 「浪花道頓堀の役者たち」展
2022年12月18日(日)
大阪浮世絵美術館から徒歩10分足らずの場所にある上方浮世絵館。こちらは「浪花道頓堀の役者たち」展ということで、どのような展示になっているか興味を持って向かいました。
寿好堂よし国、春曙斎北頂、春好斎北洲、春曙斎北晴、戯画堂芦ゆき等、上方浮世絵の特徴ある絵師たちの作品がずらりと並んでおり、これだけでも見に来て良かったというもの。他館ではこれほど上方浮世絵が並ぶという展示はなかなか出来ないのではないかと思います。
役者絵ということで、そもそも歌舞伎というお芝居自体に誇張表現というものが多用されているのですが、江戸の役者絵はさらにそれにブーストを掛けて誇張し象徴化するというのが特徴のひとつ。
一方で上方浮世絵はそこまで誇張して表現するということはなく、どことなくしっとりとした丁寧で嫋やかな表現がみどころのひとつ。
春好斎北洲の「釜淵双級巴」や「時再興在原景図 八陣守護城」などの丁寧な表現は、私はとても好きです。
出口にはミュージアムショップも併設され、こちらも見るだけでも楽しいですね。
大阪ならではの浮世絵が見られるということで、こちらの上方浮世絵館の展示も大変満足致しました。
大阪浮世絵美術館 「写楽と珠玉の浮世絵」展
大阪浮世絵美術館 「写楽と珠玉の浮世絵」展
2022年12月18日(日)
写楽の二点を見ようと思い立ち、大阪浮世絵美術館へ。商店街の中の商業ビルの中ということもあって、思わず通り過ぎてしまいそうになりましたが、何とか館内へ。階上へ向かうと、左手に展示室、右手にミュージアムショップがありました。
まず目に付いたのは北斎による柱絵。七福神を細長い縦の用紙いっぱいにレイアウト。賑やかでバランスの良い構図は外国人を驚かせたそうです。
この美術館の展示品も、他館に負けず劣らず色が鮮やかです。中折れしているものもありますがあまり目立ちません。
豊国の今源氏錦絵合わせや広重の浪花名所図会 順慶町夜店之図も色の鮮度が高いです。
ルーペをお借りして、細かい摺りの技術、特に空摺り(人力のエンボス加工)の様子を細部まで観察します。水野年方 蛍狩なども美しい空摺りが見られます。
歌川貞秀の源平一ノ谷大戦高名之図は忠度を中央に配し、決戦の様子を迫力ある3枚もので表現。
歌川貞秀の大阪名所一覧は遠方に天保山、右方に大阪城内へ向かう大名行列を描く、9枚ものの大作。
そしてお目当ての「八世守田勘弥の駕籠舁 鶯の治郎作」「三世坂東彦三郎の鷺坂左内」。黒雲母摺の重厚な背景に、くっきりと大首が浮かび上がります。守田勘弥の苦み走った表情や、坂東彦三郎のやや童顔な目元など、迫真の筆で表現されており、何度も見入ってしまいました。
他にも東海道五拾三次や富嶽三十六景など、コンディションの良いものが多く揃っており、大変見応えのある展示でした。
ミュージアムショップの方もかなり充実しており、中でも江戸時代当時に摺られた(複製品ではない)本物の浮世絵が販売されているところは出色でしょう。
外観からは想像がつかないほど、充実した特徴ある展示をされる美術館でした。
日本浮世絵博物館 「日本浮世絵博物館 会館40周年記念 優品でたどる 酒井コレクションのはじまり」展(後期)ギャラリートーク
2022年12月11日(日)
日本浮世絵博物館 「日本浮世絵博物館 会館40周年記念 優品でたどる 酒井コレクションのはじまり」展(後期)ギャラリートーク
「酒井コレクションの始まり」後期展に行ってきました。今年最後のギャラリートークです。
12月の特別展示は喜多川歌麿の「忠臣蔵 初段」。色が残りにくいと言われる紫色が顔世御前の着物にはっきり残っていて、雅やかな雰囲気が楽しめます。
北斎や広重の名高い浮世絵も見応えがあるのですが、鑑賞の機会が少ない、言わば忘れられてしまっている絵師、歌川国直や柳川重信、歌川国丸、勝川春扇などの個性ある浮世絵を興味深く鑑賞しました。著名ではない絵師のひとりひとりの個性、なんだか愛おしいんですよね。
広重の師匠である歌川豊広の「江戸八景 吉原落雁」「江戸八景 日本橋晴嵐」もしっとりとした抒情性があってこちらも愛おしいです。
前後期に渡って酒井コレクションの優品を観てきました。次回企画展は
「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」
とのこと。もう来年の話になるんですね。
早いなぁ…。
こちらの企画展も前後期、楽しみに待ちたいと思います。