日本浮世絵博物館 「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」展(前期)ギャラリートーク
2022年1月15日(日)
日本浮世絵博物館 「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」展(前期)ギャラリートーク
「浮世絵でたどる 信州ゆかりの武将と名所」前期展に行ってきました。今年最初のギャラリートークです。
1月の特別展示は歌麿の「万福長者豊歳栄」。
たいへんおめでたい図で、弁財天や大黒天、恵比寿が描かれていますが、中でも福助の存在感がすごいです。
二代勝川春章による義仲四天王。童顔の木曽義仲四天王が暴れ回る姿が描かれています。躍動感がありながらどことなくユーモラスです。
勝川春亭の北國犬伏峠大合戦。中央に巴御前、手塚太郎や樋口次郎は脇に配し、主役は巴御前なんだぞと言いたげ。色数は少ないものの3枚もので広々とした画角で迫ってきます。
月岡芳年の各種武者絵、木曽義仲、信玄、謙信など。独特の抒情感、寂寥感が湛えられ、表情に誇張がない分、しみじみとこちらの心に残ってきます。
信玄公諏訪法性の兜のハグマ部分の入念な空摺り
国芳の勇魁三十六合戦 廿八。倶利伽羅峠の闘いを描いていますね。実際には無かったとも言われている火牛の計ですが、「そんな細けぇこたぁどうでもいいんだよ」とばかりに大胆に描き、大混乱の様子は「お見事!」と絵を見ながら拍手喝采してしまいそうな迫力。
勝川春亭、歌川貞秀、広重による宇治川合戦。特に貞秀は遠近法を使って3枚もの、迫真の画面。
一方の広重は、まるで木曽街道を描いているような叙情的な合戦図になってしまっていてとても微笑ましいです。
宇治川合戦は名馬池月に騎乗した佐々木高綱と、同じく磨墨に騎乗した梶原景季の先陣争いで有名です。松本市立高綱中学校の校名の由来にもなっている佐々木高綱は、源平合戦ののち出家して松本市内に正行寺を開基したと伝えられています。
勝川春亭、国芳などによる巴御前。女武者として昔から格好の題材だったのだと思いますが、どれもムキムキの武者というよりは絶世の美女風に描かれていて、当時の人々の思い入れのほどが分かります。
国芳、歌川芳艶、勝川春亭、広重による信州川中島合戦各図。それぞれの個性があって大変面白いです。特に広重の絵には「故人春亭の画を見て模写してますよ」的な事が書かれていて、当時としてもこんなコピーライト的な律儀なことをするんだなと初めて知りました。
木曽街道六拾九次からは、長野県エリアの宿場絵の中から抜粋した展示。状態の良い塩なたや長久保はいつ見ても叙情感があってしみじみします。
国貞(三代豊国)、国芳の役者絵による木曽街道。役者絵と背景の街道絵のコントラストが楽しいですね。当時の人々は、役者絵を見ればすぐに誰のことなのか分かったそうですが、今の我々には解説がないとなかなか厳しいですね。
後期展示は全ての作品が入れ替わるということで、同じ題材を異なる表現で描く作品など、その違いの比較が楽しめそうです。